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兎鬼丸とスキピオヌ

爆発音の中、兎鬼丸はスキピオヌの手を引いて走った。魔界と冥界が激しくぶつかり合う中、兎鬼丸は戦場からの離脱を選んだ。小さい兎鬼丸に手を引かれて、走るスキピオヌの息遣いが聞こえる。


スキピオヌは、冥界第三帝国の後継者であり、その凶暴さ、勇猛さに魔界の面々は何度となく苦しめられてきた。スキピオヌの姉であるASHは、その知謀と恐るべき戦闘能力で魔界を冥界に沈めた。魔界にとってスキピオヌとASHは不倶戴天の敵と言っていい存在である。そのスキピオヌと自分が共に手をとって行動を共にする不思議さに兎鬼丸は戸惑ってもいた。


「もうこの辺で大丈夫だよ」

兎鬼丸は、足を止めた。スキピオヌは足を止めてそのまま大地に身を横たえた。

「スキピ大丈夫?」

兎鬼丸は慌てて地面に伏せているスキピオヌに顔を寄せた。スキピオヌの背が小刻みに震えている。泣いていた。

「逃げてしまった・・」

スキピオヌは声を絞り出した。

「姉上に申し訳ない・・」

「スキピ・・」

「私はもう勇者ではない。ただの臆病者だ」

スキピオヌはASHと共に戦場に現れた。いつものスキピオヌなら敵も味方も関係なく蹴散らしたであろう。しかし、戦場の中で兎鬼丸がスキピオヌを見つけると、彼は明らかに怯えていた。

「もう姉上には会えない・・」

スキピオヌは項垂れた。ASHのスキピオヌに対する期待と愛情は敵でありながらも兎鬼丸には伝わっている。今この場にASHがいればスキピオヌを決して許さないであろう。

「私はどうしてしまったのか・・」

泣くスキピオヌの肩をそっと兎鬼丸は抱いた。

「スキピ。今は何も考えなくていいよ。人は誰だって怖くなる。スキピは弱くなったんじゃない。人の心を持ったんだよ」

「人の・・」

スキピオヌが訝しげに兎鬼丸の顔を見上げた。そのスキピオヌの頬を伝う涙を兎鬼丸はそっと拭った。

「スキピはもっと強くなる。本当の意味で」

「本当の?」

兎鬼丸はスキピオヌを立たせて、笑顔を向けた。

「これからきっとそのことがわかるよ。だから今は行こう!」

どこに向かえばいいのか・・兎鬼丸にもわからなかったが、ただ前を向いて歩き出した。進む先にきっと明かりがある。そう思った。

赤茶けた大地を大小の影が進み始めた。






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