「仏教と脳科学」を音読して。

「仏教と脳科学」

A. スマナサーラ 有田秀穂 著

宗教と科学、宗教家と科学者。

この異色の対談は、音読することによっておふたりの思考が脳内に流れ込んできて名状しがたい興奮と感銘と困惑をワタシにもたらしてくれました。

有田先生は、一貫して先生の研究の中心であるセロトニン神経を軸に仏教の修行法である瞑想についてアプローチし、スマナサーラ長老はそれに対して様々な角度から宗教を語るという方法で対話をされました。

対談は必ずしも噛み合っているとは限らず、時には食い違い、時にはすれ違い、時には微妙な対立も生んでいます。(スリランカ仏教界の名僧でいらっしゃるスマナサーラ長老はあとがきでこの微妙なすれちがいや対立について触れられていました。)

声を出して読むとおふたりの微妙な不一致が大変興味深くダイレクトに感じることができました。その感覚が本当に繊細で微妙であり、この対話の絶妙な緊張感をより深く味わうことができます。

しかしながら、全体としては、人間の幸福や煩悩といった抽象度の高い問題を宗教と脳科学というふたつの扉から考えるという手法は、それ自体がまるで難解なミステリーを解き明かしていくような爽快感と濃密さがありました。

ワタシとしては、やはり科学者である有田先生の論が大変わかりやすく、特にリズムと反復が、セロトニン神経を活性化させ、脳の集中を興奮ではなく穏やかに保つという説は興味深く、またその説は、仏教においては歩く瞑想として実際に行われているというスマナサーラ長老の裏付けもあり、この書の中で最も記憶に残りました。

歩く瞑想においては、歩く行為そのものを、「右、左、右、左・・」と行為そのものを実況中継することによりリズムと反復を生み出し、集中力を高めるというもので、仏教の言葉でいうところの「無意識を有意識に変える」という修行なのだそうです。

ワタシはこれを実際、やっています。

なかなか完全に集中することは難しいのですが、不思議なことに「右、左、右、左・・」と念じながら歩くと驚くほど、歩幅が広がり同時に姿勢がよくなり、悩みだった腰痛が発症しなくなりました。

有田先生とスマナサーラ長老のお話から推測するに、歩くという行為に集中することにより、いわゆる無意識から有意識に変わり、その結果、身体のコントロールが高い次元で行われるのではないかと。

この対話集はこうした実例に基づいたものから、釈迦の時代に遡り人間の根源を見つめ直す遠大なものまで、濃密で幅広いものとなっています。

対話集ならではの読みにくさはあるものの、単なる宗教書でも科学書でもないハイブリッドな今までにない一冊です。

ご興味のある方はぜひ触れてみてほしいと思います。


 Akihito manabe profiel: 

 

研修講師、演出家、脚本家、小説家、作詞家

1968年生まれ

大学卒業後、大日本印刷、吉本興業を経て独立。

「演出」にフォーカスしたコミュニケーションプログラム「アクトレーニング」を開発。教育機関、企業などで幅広く講師活動を行う。

​一方、独特の感性でエンタテイメントビジネスでもハイブリッドエンタテインメント「魔界」の総合プロデュースなどを行う。

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